1月18日

お題「紅茶」

その1.紅茶との出会い

今を遡ること十数年前、当時の私にとってお茶と言えば緑茶であり、少なくともコーヒーは大人の飲み物だった。紅茶という存在は知ってはいたけれど、両親も緑茶かコーヒーを飲む人だったので決して身近な存在ではなかった。
そんな私にとって初めての紅茶は、母が買ってきた名糖産業のレモンティー粉末だった。レモンの風味があって、甘くて、ホットにしてもアイスでも美味しい、子供でも飲むことができる味に一瞬で虜になった。母はそんな私を見て、何度かこれを買ってきてくれた。またあるときはアップルティーだった。当時も今も私は朝が弱く、朝食をなかなか食べられなかったのだけれど、トーストと目玉焼きとレモンティーが出てくる朝食は、幸せな光景の一つだった。

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その2.紅茶への関心の高まり

それから数年、ようやく砂糖を入れればコーヒーも飲めるようになった私は、ティーバッグの紅茶を飲むようになっていた。片田舎の街には小洒落た紅茶専門店などというものはなく、もっぱらスーパーマーケットで母が購入してくれたリプトンや日東、トワイニングの紅茶を飲む生活ではあったが、それでも私は満足していた。
切欠が何だったのかあまり覚えていないのだが、私は徐々に茶葉から紅茶を淹れることに対して興味を示すようになってきた。恐らく、何かの漫画かアニメかドラマかの影響だとは思う。ただ、前述した通り片田舎の街に紅茶専門店などというものは存在しない。やはり近所のスーパーマーケットで購入した茶葉を、フレンチプレスで淹れて飲んでいた。なぜフレンチプレスだったのかは記憶に残っていない。
だが、当時の私にとって「スーパーマーケットで購入した茶葉を、フレンチプレスで淹れる」という行為は満足を得られるものではなかった。ガラスや陶器でできた、見た目にも美しい茶器を使って淹れた紅茶を飲みたい。香り豊かな紅茶を楽しみたい。そんな想いは高まる一方となっていた。

その3.紅茶専門店との出会い

そんな状況が打破されたのは、15歳の時だった。徐々に発展してきた街に、紅茶専門店ができたのだ。
ルピシア(当時はレピシエ)の支店である。初めて訪れた紅茶専門店は、店内に所狭しと茶葉が置かれ、綺麗で可愛らしい茶器に溢れた空間だった。今まで、テレビや漫画でしか見ることの無かった様々な産地の紅茶を、こんなにも間近に見られる。買うことも出来る。夢のような店だった。
高校生の小遣いではそれほど良い茶葉を買うことは出来なかったが、それでも私は店に良く足を運んだ。店員さんに勧められるがままに口にした試飲茶に心を奪われそのまま購入することもあった。茶器や小物も幾度となく購入した。当時、私は隣の市にある学生寮に住んでおり、せいぜいお湯を沸かすかインスタントラーメンを作るくらいにしか使えない狭い共同キッチンを使用する生活だったのだが、紅茶を飲むためであればそれは十分だった。部屋で勉強をしながら、ゲームをしながら、くつろぎながら、様々なシーンにおいて、紅茶はいつでも傍にあった。

その4.紅茶への傾倒

それからしばらくして、私はアルバイトを始めた。友人の紹介で始めたその仕事は、10代の若者が手にするには幾ばくか多すぎるくらいの収入を私に与えてくれた。それはつまり、かつてはなかなか手が出せなかった様々な紅茶を、思う存分楽しむことができるということを意味していた。
今までは100gで1000円を超えるような紅茶は、少し躊躇いがあった。でも今なら、50gで3000円もするような紅茶にだって手が届くのだという事実は、麻薬のようでもあった。私は自分が紅茶を飲むペースすら忘れて買い漁った。幸か不幸か、ルピシアは「紅茶の福袋」と称して、お正月に詰め合わせボックスの販売もしていたため、今まで知らなかった銘柄、購入を躊躇していた銘柄も、次々に手にしていった。今日はダージリン、明日はアッサム、昨日はフレーバード、今度はハーブティー……好きな紅茶を、好きなだけ飲むことができる生活の中で、私はどんどん紅茶に傾倒していった。

その5.学ぶということ

お茶は、それぞれに適した淹れ方がある。あるお茶は熱湯で、あるお茶は80℃くらいで、あるお茶は60℃くらいで。あるお茶はカップ1杯につき3g程度、あるお茶は2g程度、あるお茶は4g程度。これはお菓子作りにも通ずるところがあると思うが、お茶はその淹れ方を変えるだけで無数の味わいを見せてくれる。蒸らす時間、温度、その日の気温や湿度、合わせるお茶請け、その中でどんなお茶が自分の好みなのかを探す行為は、とても楽しい。
飲むことに楽しみを感じていた私は、徐々に紅茶を知ること、学ぶことにも楽しみを見出すようになっていた。どんな産地があるのか、クオリティシーズンはいつなのか、どんな淹れ方が適しているのか、どんなお茶請けに合うのか。幸いにして、当時はインターネットがあれば多くの情報を手にすることができる時代になっていたこともあり、私は連日のように紅茶に関するホームページを読みふけった。

その6.そして今

そして今、相変わらず紅茶を楽しんでいる。数年前から中国茶にも関心を示すようになり、台湾ではたくさんの茶葉を購入してきた。幸か不幸か訪れることになったインドも紅茶の産地として有名だった。国内では京都や宮崎などで日本茶を購入して楽しんでいる。一杯のレモンティーから始まったこの生活は、今なお続いている。
ただ、かつてよりも紅茶を楽しむ時間は減ってしまった。学生の頃は研究室で一日中お茶を飲んでいたものだが、今では夜寝る前にティーバッグの紅茶を1杯楽しむ程度の生活になっている。溜まりに溜まった茶葉の数々を見ると、未だに未開封の物も多くある。このお茶を開封するまでにどれほどの時間が掛かってしまうのか、ため息が出てくる毎日だ。
それでも、紅茶が私の生活を潤してくれることに変わりはない。これからずっと、恐らくは事切れるときまで、私はずっと紅茶と共に生き続けるのだと思う。世の中にはまだまだ私の知らない紅茶がたくさんある。それらはきっと、また新しい感動と喜びを与えてくれるに違いない。それがとても楽しみだ。